2010.11.30(火)
先日、今年のメト新プロダクションの一つ「ドン・カルロ」を観て来た。

これも今年楽しみにしていた演目のひとつ。
Directorはイギリス出身のニコラス・ハイトナー。「ミス・サイゴン」や「ヒストリー・ボーイズ」をプロデュースした人で、今はロンドン・ナショナル・シアターでDirectorをしている。
指揮者はYannick Nezet-Seguin。
「ドン・カルロ」はヴェルディが好む題材を満載したオペラだ。友情と自己犠牲、親子の関係、許されぬ恋愛、政治と宗教、国家と個人。複雑な要素がからみあう、スペクタル・ドラマだ。
その結果、「ドン・カルロ」をより完全な演奏形態にするため、沢山の改訂版が世に残る結果となった。
初演は1867年のフランス語版。同年イタリア語初演版が上演され、その後20年に渡り改正に改正が加えられた。
今回のメトで上演されるのは、イタリア語のオリジナル5幕版。上演時間4時間半ととても長いオペラだ。
大好きなヴェルディのオペラとあって、期待を胸にメトに出かけた。
今回のタイトル・ロール「ドン・カルロ」の役はロベルト・アラーニャが歌うことになっていた。ドミンゴやパバロッティに追従するテノールとして、随分と注目を浴びていたが、最近はちょっと不調気味であった。しかし、今回のアラーニャは違った。

「ドン・カルロ」のストーリーは”ドン・カルロ”のストーリーというよりも、父帝の”フィリッポ王”や友人”ロドリーゴ”のキャラクターの方が断然面白く、重要なテーマが与えられている。だからこれらの役に押されがちになるのだが、今回のドン・カルロでは、アラーニャの存在感が大きく、登場人物として決してひけをとらなかった。
彼の伸びと艶のある声に、久々にうっとりとするようなテノールの声を堪能した。
ドン・カルロが、王子として国家と個人の狭間で悩むどころか、愛に直情するところとか、父帝の悩みを思いやる思慮のない短絡的なところとか、キャラクター的にとても合っていたように思う。
これは決して悪い意味でなく、例えばドミンゴがこの役をやると、本来の明るさが出てきてしまい、ドン・カルロの陰鬱さが表現されず、別物になってしまう。しかしアラーニャの演じたドン・カルロは、暗い部分をもつキャラクターの部分がなかなかあっていたと思う。
今回のアラーニャを見て、彼をそうとう見直した。何かが吹っ切れ脱皮したアラーニャ。これからがとても楽しみだ。
今回のプロダクションはロンドンのロイヤル・オペラ(2008年)とノルウェー・ナショナル・オペラの合作のもの。
フィリッポ2世役のFerruccio Furlanetto、ロドリーゴ役のSimon Keenlyside、エリザベス役のMarina Poplavskayaは同役をロンドンでも歌っている。
この3人がまたよかった。
フィリッポ2世は、いろいろなことに思い悩む深い役どころ。息子ドン・カルロの短絡的なところに思い悩み、新妻エリザベスが自分を愛していないことに憂う。これから国をどうしていくか、宗教との絡み、等々、複雑で重い役なのである。
その悩めるフィリッポ2世をFurlanettoはすばらしく表現していた。フィリッポ2世の独白のシーンでは彼の苦悩がひしひしと伝わってきた。
またロドリーゴ役のKeenlysideがよかった。ロドリーゴは理想が高く、気位があり、ドン・カルロへの献身的な友情、難しい性格のフィリッポ2世の心まで掴むという、切り口が沢山のマルチなスーパーボーイ。
この品格が伴われる役は、Keenlysideのはまり役であった。見た目も品があり、気高い姿勢、自分の信念を貫く感じがぴったり。ドン・カルロとの二重唱やロドリーゴがカルロに別れを告げるシーンなどは涙ものであった。
エリザベス役のMarina Poplavskayaもなかなかよかった。ちょっとぐらつくところはあったが、愛のない結婚をしなければならない若い王女をエレガントに表現していた。
ちょっと残念だったのはエーボリ役のAnna Smirnova。エーボリは、自分の美貌をたたえ、王様の愛人でありながら、ドン・カルロとの愛に破れ嫉妬する、クセのある強烈なキャラクター。私の好きなキャラクターである。
アイーダのアムネリスみたいな感じの役どころで、ソプラノを食ってしまうほどの役なのだが、残念ながら、そのダークさ、セダクティブさ、が足りなかった。
しかしこれだけのキャストを集めなければいけないのだから、「ドン・カルロ」がなかなか上演されないのもよくわかる。
ハイトナーの舞台はモダンでありながら、ヴェルディの音楽のカラーとマッチしたすばらしい舞台であった。

このオペラを聴いて、改めてヴェルディのオペラっていいなぁ、と思った。彼のオペラは熱い。人が与えられた人生を一生懸命、精一杯に生きる、パッションを感じる。それが力強く音楽となって表現され、耳に響き、体にしみ込む。
見終えた後は、なんだかひとつパワフルになって、帰路に着く。そんな感じがする。
今のところ今年のメトはかなり飛ばしていて、今のところはずれがない。今シーズンの今後もとても楽しみだ。
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アイオワは雪でした。ものすごく寒いです。そして今日はロックフェラーの点灯式。TVの画面でいつも見ているロックフェラーを見るのはなんだかヘンな気持ちでした。えらくニューヨークが遠く感じます。

これも今年楽しみにしていた演目のひとつ。
Directorはイギリス出身のニコラス・ハイトナー。「ミス・サイゴン」や「ヒストリー・ボーイズ」をプロデュースした人で、今はロンドン・ナショナル・シアターでDirectorをしている。
指揮者はYannick Nezet-Seguin。
「ドン・カルロ」はヴェルディが好む題材を満載したオペラだ。友情と自己犠牲、親子の関係、許されぬ恋愛、政治と宗教、国家と個人。複雑な要素がからみあう、スペクタル・ドラマだ。
その結果、「ドン・カルロ」をより完全な演奏形態にするため、沢山の改訂版が世に残る結果となった。
初演は1867年のフランス語版。同年イタリア語初演版が上演され、その後20年に渡り改正に改正が加えられた。
今回のメトで上演されるのは、イタリア語のオリジナル5幕版。上演時間4時間半ととても長いオペラだ。
大好きなヴェルディのオペラとあって、期待を胸にメトに出かけた。
今回のタイトル・ロール「ドン・カルロ」の役はロベルト・アラーニャが歌うことになっていた。ドミンゴやパバロッティに追従するテノールとして、随分と注目を浴びていたが、最近はちょっと不調気味であった。しかし、今回のアラーニャは違った。

「ドン・カルロ」のストーリーは”ドン・カルロ”のストーリーというよりも、父帝の”フィリッポ王”や友人”ロドリーゴ”のキャラクターの方が断然面白く、重要なテーマが与えられている。だからこれらの役に押されがちになるのだが、今回のドン・カルロでは、アラーニャの存在感が大きく、登場人物として決してひけをとらなかった。
彼の伸びと艶のある声に、久々にうっとりとするようなテノールの声を堪能した。
ドン・カルロが、王子として国家と個人の狭間で悩むどころか、愛に直情するところとか、父帝の悩みを思いやる思慮のない短絡的なところとか、キャラクター的にとても合っていたように思う。
これは決して悪い意味でなく、例えばドミンゴがこの役をやると、本来の明るさが出てきてしまい、ドン・カルロの陰鬱さが表現されず、別物になってしまう。しかしアラーニャの演じたドン・カルロは、暗い部分をもつキャラクターの部分がなかなかあっていたと思う。
今回のアラーニャを見て、彼をそうとう見直した。何かが吹っ切れ脱皮したアラーニャ。これからがとても楽しみだ。
今回のプロダクションはロンドンのロイヤル・オペラ(2008年)とノルウェー・ナショナル・オペラの合作のもの。
フィリッポ2世役のFerruccio Furlanetto、ロドリーゴ役のSimon Keenlyside、エリザベス役のMarina Poplavskayaは同役をロンドンでも歌っている。
この3人がまたよかった。
フィリッポ2世は、いろいろなことに思い悩む深い役どころ。息子ドン・カルロの短絡的なところに思い悩み、新妻エリザベスが自分を愛していないことに憂う。これから国をどうしていくか、宗教との絡み、等々、複雑で重い役なのである。
その悩めるフィリッポ2世をFurlanettoはすばらしく表現していた。フィリッポ2世の独白のシーンでは彼の苦悩がひしひしと伝わってきた。
またロドリーゴ役のKeenlysideがよかった。ロドリーゴは理想が高く、気位があり、ドン・カルロへの献身的な友情、難しい性格のフィリッポ2世の心まで掴むという、切り口が沢山のマルチなスーパーボーイ。
この品格が伴われる役は、Keenlysideのはまり役であった。見た目も品があり、気高い姿勢、自分の信念を貫く感じがぴったり。ドン・カルロとの二重唱やロドリーゴがカルロに別れを告げるシーンなどは涙ものであった。
エリザベス役のMarina Poplavskayaもなかなかよかった。ちょっとぐらつくところはあったが、愛のない結婚をしなければならない若い王女をエレガントに表現していた。
ちょっと残念だったのはエーボリ役のAnna Smirnova。エーボリは、自分の美貌をたたえ、王様の愛人でありながら、ドン・カルロとの愛に破れ嫉妬する、クセのある強烈なキャラクター。私の好きなキャラクターである。
アイーダのアムネリスみたいな感じの役どころで、ソプラノを食ってしまうほどの役なのだが、残念ながら、そのダークさ、セダクティブさ、が足りなかった。
しかしこれだけのキャストを集めなければいけないのだから、「ドン・カルロ」がなかなか上演されないのもよくわかる。
ハイトナーの舞台はモダンでありながら、ヴェルディの音楽のカラーとマッチしたすばらしい舞台であった。

このオペラを聴いて、改めてヴェルディのオペラっていいなぁ、と思った。彼のオペラは熱い。人が与えられた人生を一生懸命、精一杯に生きる、パッションを感じる。それが力強く音楽となって表現され、耳に響き、体にしみ込む。
見終えた後は、なんだかひとつパワフルになって、帰路に着く。そんな感じがする。
今のところ今年のメトはかなり飛ばしていて、今のところはずれがない。今シーズンの今後もとても楽しみだ。
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アイオワは雪でした。ものすごく寒いです。そして今日はロックフェラーの点灯式。TVの画面でいつも見ているロックフェラーを見るのはなんだかヘンな気持ちでした。えらくニューヨークが遠く感じます。