2013.11.14(木)
映画 「「それでも夜は明ける (原題:12 Years a Slave)」
プレビューを見た時からとても気になっていた映画「「それでも夜は明ける(原題 12 Years a Slave」。

原題の通り、12年間を奴隷として過ごした男の物語です。
この映画はトロント映画祭でPeoples Choice賞を受賞。監督はスティーヴ・マックィーン。
******
時代は1841年。ニューヨークは、この時期すでに奴隷制廃止の「自由」州。
そんなニューヨーク州サラトガスプリングスに住む黒人のソロモン・ノースアップ(キヴェテル・イジョフォー)は自由人として生まれ育ち、バイオリン奏者として生計をたて、妻と二人の子供の4人家族で仲睦まじく暮らしていた。

とこらがある時サーカスでの演奏ツアーの話を持ちかけられ、ワシントンDCに行ったソロモンは、お酒で眠らされてしまう。気が付いたら鎖に繋がれていた。
騙されたのだ。
そして拉致され、奴隷として南部に売られてしまう。

大農園のある南部では、まだ奴隷制が支持されていた。
ソロモンは、故郷の知り合いとも連絡を取ることも出来ず、一転して奴隷としての過酷な日々を送ることになる。

*******
この映画は、ソロモン・ノースアップの自伝をもとに作られています。ということは実話をもとにしている、ということ。
昨日までは自由人として、仕事を持ち、家庭を持ち、普通に暮らしていた人が、ある日を境に人間としての扱いをされず、誰かの持ち物として、家畜のような扱いをうけることになるのです。
もうね、見ていられないような酷いシーンもいっぱいあって、当時はこんなことがあったんだ、と思うと言葉もありません。
マックィーン監督の表現するこの時代は、とてもリアルで容赦がありません。
自由人として生まれ育ったソロモンは、身なりは奴隷になってもどこか気品があり、知性が漂っています。どんなに過酷な生活を強いられていても、心は自由人としての尊厳を保ち続けています。
そんなところが黒人奴隷としてずっと生きている周りの人たちと壁を作っています。
なのですが、綿の取り入れ作業中に皆で歌うシーンでのこと。
作業をしている仲間が歌を歌い始めると、最初はなかなか声がでなかったソロモン。

なのだけど、だんだん歌がこみ上げてきて、皆と一緒になって歌い出します。
黒人たちの心の声。それが歌。
自分のあるべき姿をいつも忘れず、尊厳を持って生きてきたソロモン。
でも歌わずにはいられない、彼の心の叫び声を、この歌のシーンで聞いたような気がしました。
それからソロモンの2人目のプランテーションの主のエドウィン(マイケル・ファスペンダー)。
彼もこの時代のほかの農場主と同じく、奴隷を冷酷で残虐に扱うのですが、一人の黒人少女を愛しています。

白人と黒人、農場主と奴隷、という立場にいながら、自分の思いは抑えられない。
性的に暴力的に彼女に迫り支配することでしか、彼女への愛を表現できないエドウィン。
知性的なソロモンに劣等感を感じ、しかも黒人奴隷との関係を知るソロモンに恐れと恥を感じ、ゆがみに歪んだ男。
こんな複雑な役を、見る人が苦しくなるほどに見事に演じていました。
エドウィンに愛されてしまう女性パッツィは見ていて本当に気の毒でいたたまれない。一方的に思われ、彼は愛情表現を体でしか表現できないので、ただただ奪われるだけ。しかもエドウィンの愛人に嫉妬され、必要以上に冷たくあしらわれ、踏んだりけったり。それでも耐えるしかないのです...。
ムチ打たれるシーンは本当に痛々しげで、目や耳を覆いたくなるほど。
こんなことがそんな遠くない過去にあったとは。
でも私達はこんな歴史があったことを学ぶことで、二度とこのような過ちはおかしてはいけない、ということを、この映画は伝えたかったのだと思います。
観ていて本当に息苦しくなるのだけど、目をそむけちゃいけない。
真実を受け止め、これからどう生きていくかを考えさせてくれる、大きな一本の軸のある、見ごたえのある映画でした。
この映画を観て、こんな歴史を歩んできた私達は、それでも少しは進歩しているのではないか、とふと思いました。もちろん今も差別はなくなってはいませんが、少なくとも奴隷制は廃止され、黒人の大統領が出るほどまでになりました。
女性も社会に進出し活躍している人が沢山います。テレビではゲイのカップルの物語が普通のように放映され、各州でゲイカップルの結婚も認められるようになりました。
以前に比べ、問題が喚起されると、解決へのスピードが早まってきているように感じます。
問題はなくなっていないけれど、少なくともまわりの人の痛みを感じて我々は学び、方向修正をしながら、良い方向へと向かっているような気がしました。
こういう作品が制作されることで、我々が犯した過ちを学び、二度とこのような惨事を繰り返さないことを肝に銘じる。アートはこうやって人の心を導く役割をしているのだなぁ、と、辛い映画を観ながら考えました。
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原題の通り、12年間を奴隷として過ごした男の物語です。
この映画はトロント映画祭でPeoples Choice賞を受賞。監督はスティーヴ・マックィーン。
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時代は1841年。ニューヨークは、この時期すでに奴隷制廃止の「自由」州。
そんなニューヨーク州サラトガスプリングスに住む黒人のソロモン・ノースアップ(キヴェテル・イジョフォー)は自由人として生まれ育ち、バイオリン奏者として生計をたて、妻と二人の子供の4人家族で仲睦まじく暮らしていた。

とこらがある時サーカスでの演奏ツアーの話を持ちかけられ、ワシントンDCに行ったソロモンは、お酒で眠らされてしまう。気が付いたら鎖に繋がれていた。
騙されたのだ。
そして拉致され、奴隷として南部に売られてしまう。

大農園のある南部では、まだ奴隷制が支持されていた。
ソロモンは、故郷の知り合いとも連絡を取ることも出来ず、一転して奴隷としての過酷な日々を送ることになる。

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この映画は、ソロモン・ノースアップの自伝をもとに作られています。ということは実話をもとにしている、ということ。
昨日までは自由人として、仕事を持ち、家庭を持ち、普通に暮らしていた人が、ある日を境に人間としての扱いをされず、誰かの持ち物として、家畜のような扱いをうけることになるのです。
もうね、見ていられないような酷いシーンもいっぱいあって、当時はこんなことがあったんだ、と思うと言葉もありません。
マックィーン監督の表現するこの時代は、とてもリアルで容赦がありません。
自由人として生まれ育ったソロモンは、身なりは奴隷になってもどこか気品があり、知性が漂っています。どんなに過酷な生活を強いられていても、心は自由人としての尊厳を保ち続けています。
そんなところが黒人奴隷としてずっと生きている周りの人たちと壁を作っています。
なのですが、綿の取り入れ作業中に皆で歌うシーンでのこと。
作業をしている仲間が歌を歌い始めると、最初はなかなか声がでなかったソロモン。

なのだけど、だんだん歌がこみ上げてきて、皆と一緒になって歌い出します。
黒人たちの心の声。それが歌。
自分のあるべき姿をいつも忘れず、尊厳を持って生きてきたソロモン。
でも歌わずにはいられない、彼の心の叫び声を、この歌のシーンで聞いたような気がしました。
それからソロモンの2人目のプランテーションの主のエドウィン(マイケル・ファスペンダー)。
彼もこの時代のほかの農場主と同じく、奴隷を冷酷で残虐に扱うのですが、一人の黒人少女を愛しています。

白人と黒人、農場主と奴隷、という立場にいながら、自分の思いは抑えられない。
性的に暴力的に彼女に迫り支配することでしか、彼女への愛を表現できないエドウィン。
知性的なソロモンに劣等感を感じ、しかも黒人奴隷との関係を知るソロモンに恐れと恥を感じ、ゆがみに歪んだ男。
こんな複雑な役を、見る人が苦しくなるほどに見事に演じていました。
エドウィンに愛されてしまう女性パッツィは見ていて本当に気の毒でいたたまれない。一方的に思われ、彼は愛情表現を体でしか表現できないので、ただただ奪われるだけ。しかもエドウィンの愛人に嫉妬され、必要以上に冷たくあしらわれ、踏んだりけったり。それでも耐えるしかないのです...。
ムチ打たれるシーンは本当に痛々しげで、目や耳を覆いたくなるほど。
こんなことがそんな遠くない過去にあったとは。
でも私達はこんな歴史があったことを学ぶことで、二度とこのような過ちはおかしてはいけない、ということを、この映画は伝えたかったのだと思います。
観ていて本当に息苦しくなるのだけど、目をそむけちゃいけない。
真実を受け止め、これからどう生きていくかを考えさせてくれる、大きな一本の軸のある、見ごたえのある映画でした。
この映画を観て、こんな歴史を歩んできた私達は、それでも少しは進歩しているのではないか、とふと思いました。もちろん今も差別はなくなってはいませんが、少なくとも奴隷制は廃止され、黒人の大統領が出るほどまでになりました。
女性も社会に進出し活躍している人が沢山います。テレビではゲイのカップルの物語が普通のように放映され、各州でゲイカップルの結婚も認められるようになりました。
以前に比べ、問題が喚起されると、解決へのスピードが早まってきているように感じます。
問題はなくなっていないけれど、少なくともまわりの人の痛みを感じて我々は学び、方向修正をしながら、良い方向へと向かっているような気がしました。
こういう作品が制作されることで、我々が犯した過ちを学び、二度とこのような惨事を繰り返さないことを肝に銘じる。アートはこうやって人の心を導く役割をしているのだなぁ、と、辛い映画を観ながら考えました。
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